ヘルス29 4月, 2024

「常に成長し、世界一を目指す病院」兵庫県立はりま姫路総合医療センターUpToDate導入事例

兵庫県内の二次医療圏域の一つである播磨姫路医療圏は、姫路市に人口、医療資源ともに一点集中しており、周辺地域の医療が必ずしも十分ではありませんでした。そこで、かつての兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院を統合・移転し、2022年に設立されたのが、兵庫県立はりま姫路総合医療センター(愛称:はり姫)です。
今回、地域医療の中心的役割を果たすはり姫の取り組みと、臨床意思決定支援リソースUpToDateの活用について、木下芳一院長ならびに関係者のみなさまにお話を伺いました。

はり姫が担う地域の医療

播磨姫路医療圏は人口およそ82万人、そのうち姫路市の人口はおよそ53万人。姫路市内には複数の基幹病院があり、西播磨や中播磨、兵庫県北部からも多くの患者さんが姫路市内へ流入します。その方々に十分な医療を提供するためには二つの課題があるといいます。集中医療が比較的弱い地域であることと、地域全体での医師数が十分ではないことです。こうした背景の中で開設したはり姫では、「地域の医師とともに診療する」を最初のミッションとして掲げてきました。

木下芳一院長は、開院当時を次のように振り返ります。

「職員と地域住民のみなさまへは『かかりつけの主治医と私たち専門医集団で対応します』とアナウンスしました。そして開院から1年が経過するころ、医師以外の職員とともに『患者さんそれぞれに最良の医療を提供します』というメッセージを出しました。そこには、その患者さんにとって最良の医療という意味を込めています。」

また、はり姫は、地域医療の中心的存在として、地域の医療機関との関係構築にも注力しています。同じ医療圏内にある公立宍粟総合病院は、はり姫とともに地域の医療を支えている医療機関の一つです。宍粟市は過疎化により高齢化率が高い地域で、宍粟総合病院は消化器内科の診療を中心としています。救急医療や専門医療が必要となった場合には、救急車で2時間の道のりを超えてはり姫へも患者さんを紹介します。

救急医療と高度専門医療

はり姫は、救命救急医療と高度専門医療も担っています。かつては重症度の高い救急医療や難易度の高い専門医療を必要とする患者さんは、神戸など他地域まで行く必要がありました。しかしはり姫が開院して以降は、はり姫が播磨姫路医療圏における救急医療の司令塔となりました。播磨姫路医療圏内で唯一の救命救急センターを有し二次・三次救急に対応、ハイブリッド手術室等の高度専門医療を十分に提供できる医療設備も備えており、地域医療機関からの患者紹介にも積極的です。

公立穴栗総合病院の水谷直也医師は、患者紹介の際の情報共有にも課題があると言います。

「患者さんをご紹介する際に心掛けているのが、ある程度の情報を予め自分でも検索しておくことです。こちらから何も知らないままご紹介するのは憚られますし、患者さんの不利益になってしまうことは避けるべきですので、こちらで知るべき解決策を一旦整理しておきたい。背景疑問の解決ツールとしてUpToDateを利用しています。」

一方、はり姫の糖尿病・内分泌内科 竹内健人医師は、紹介を受ける側としても、一定の標準化されたベースラインが担保されていることは重要だと考えています。

「標準化された医療が無い中で紹介状をいただくのではなく、ご紹介元では何が難しいのか、こちらに対してどのような治療を求めているのか、UpToDateの情報を基準として双方の考え方が共有できることで、その後の診療も変わってくるのではないでしょうか。」

はり姫の内部でも、専門医とのディスカッション等でUpToDateが利用されています。たとえば、総合内科医は目の前にいる患者さんに対し、幅広い領域の知識を求められる状況にあります。一方で、自らの知識を最新の情報でアップデートしていくのは限界があります。そこでUpToDateを利用し、目の前の患者さんの状況に応じ、想定される病態や疾患に関する状況をできるだけ短時間で検索することが可能になります。

総合診療医として勤務する傍ら、臨床研修センターの副センター長として研修医の指導に携わる八幡晋輔医師は、院内の専門医とのディスカッションにもUpToDateを利用します。

「UpToDateは海外の情報が多いため、日本ではどうかという観点や、患者さんの状況に合わせて情報をカスタマイズする必要はありますが、自分自身がUpToDateである程度の情報を得た上で各専門医に相談にいき、ディスカッションしながら実際の治療方針を決定します。自分自身の学びを深めるという意味でもUpToDateは非常に有用ですし、専門医と同じ情報を共有できる点はUpToDateのメリットです。」

人材育成と臨床研究

医師の人材育成においても、はり姫はさらに一歩上を目指します。良い指導医を招致して基幹型の臨床研修プログラムを組んで専門研修を提供するといった取り組みは多くの医師育成機関で行われていますが、近隣の大学との協働で行う臨床研究も、レベルの高い専門医のやりがいを満たすはり姫のクリエイティブな取り組みの一つです。

現在の医療では「ガイドラインに則っても治せない患者さん」が一定数いらっしゃいます。こうしたケースを無くすために、より良い医療とは何かを突き詰めて検討できる、他の研究者や専門家の方々が提供する医療の情報を収集し新しい医療を行っていくことができるような環境整備が必要です。もちろん倫理的な配慮や、患者さんやご家族との十分なコミュニケーション、周辺からのサポートも必要ですが、新しい医療を行う上で重要なのは「情報へのアクセスだ」と木下院長はおっしゃいます。今この患者さんを治す方法がパブリッシュされた医療で足りないのであれば医師が自ら臨床研究を行う、今まで治せなかった患者さんを治すことができる方向性を見出し、必要ならば薬剤の開発にも関与する。その手段の一つが、病院全体で利用できるUpToDateの導入でした。

木下芳一院長は次のように述べています。

「UpToDateは、信頼のおけるエビデンスに基づいた世界基準の情報が常に更新され、どこからでもアクセスできます。専門医は自身の専門領域については世界標準の領域を超えている先生方も多いですが、そこから離れると必ずしも世界標準に達しているとはいえません。私は、『専門外でも基本的な診療を行いながら、専門領域では他の人には負けない医師』を育成したい。当院では、一つのことだけ突出するのではなく、富士の裾野のように幅広い知識を持ち、中心には非常に高い専門性を持っている医師を求めますので、あらゆる方面で標準的な知識を得ていることがスタートラインになります。治せない患者さんを無くすという課題に真摯に向き合っていくためにも、研修医から専門医まで幅広く活用してもらいたいのが、UpToDateです。」

八幡晋輔医師は、研修医とのディスカッションや実際に知識を伝える時に、UpToDateにはどう書かれているかという話をするそうです。

「研修医が最初に情報に触れる二次資料としてUpToDateを積極的に活用し、疑問点をまずは自分で解決してみることの大切さを説いています。」

そして、「当院は研修教育施設ですので、研修医の先生にも『調べる癖』をつけていただきたいです。そういう医師が増えてくれば、ほかの医療機関にもその風土は広がります。実際、UpToDateには信用できる文献も載っていますし、そこからさらにキーワードを絞ってほかの文献にたどり着けます。こうした『自ら調べて学ぶ姿勢』が、医師としての自己研鑽や学びの深さに繋がってくるのではないでしょうか。」と、竹内健人医師も同意します。

このような先輩医師の考えは臨床研修プログラムの現場ではどのように伝わっているでしょうか。多くの診療科を有し、さまざまな疾患についての学びを得られるのではという理由から、研修先としてはり姫を選択したという、後期研修医の山本淳生医師は、次のようなシーンでUpToDateを利用するそうです。

「研修医が集まって症例検討を行う時や、受け持った患者さんの治療方針を検討する際にUpToDateを利用しています。総合内科で外来を担当した際には、電子カルテを見ながら不明点を検索し、時には指導医の先生と一緒にUpToDateで検索することもありました。UpToDateはエビデンスに則った情報の集合体であり、信頼できる資料です。自身の知識の再確認や、知らないことを新しく学ぶツールとして利用しています。」

これからのはり姫

はり姫は、開院当時より多くのミッションを掲げ、着実に成長を続けています。そんな中、喫緊の課題の一つとなるのが「医師の働き方改革」です。UpToDateは働き方改革の推進にどのように貢献するのでしょうか。

「自身の働き方改革という点でUpToDateをみると、やはりいつでもどこでも気になった時にすぐに検索できるのは大きなメリットです。疑問点が解決していないまま患者さんの前に出るよりも、気になった時にどこでも検索し、疑問点を解決した上で患者さんと対峙する方が、職場でのストレスは軽減するのではないでしょうか。」(八幡晋輔医師)

「UpToDateは情報のレベルが保証されているのもメリットです。情報化社会である現在、一定レベルが保証されていない情報も氾濫しています。その中で情報を取捨選択するのが自分なのか、予めツールがしてくれるのか。後者の方が医師のストレスも軽減されますし、患者さんにとってもメリットになると思います。」(竹内健人医師)

最後に、木下芳一院長はこのようなビジョンを述べてインタビューを締めくくりました。

「当院が目指すのは『世界一の病院』です。それは、病院経営の重点を、維持ではなく成長と捉えているからです。姫路市民の一番の自慢は『姫路城』かもしれませんが、『はり姫』は二番目の自慢になります。兵庫県一、関西一、西日本一、日本一と、いずれは世界一の病院を目指していきます。

そしてこれは人材育成にも言えることです。若い人たちが付いていきたいと思う指導者は、自身も成長と発展を続ける人です。今、圧倒的な実力があっても、現状維持を目指す人は必ず後進に抜かれます。逆に実力がさらに伸びて「追いつけない」と思わせる人には、必ず人が付いてくるのです。そのために必要なのは常に学び続ける姿勢であり、今後もUpToDateがその一端を担ってくれればと期待しています。」

兵庫県立はりま姫路総合医療センターについて

兵庫県の西側に位置する兵庫県立はりま姫路総合医療センターは、計33の診療科(内科系11、外科系7、ほか15)を標榜する、播磨姫路医療圏内最大の病院です。地域内で唯一の救命救急センターを有し、一次から二次・三次救命に対応する、救急医療の指令塔でもあります。その一方で、高度専門医療や人材育成・臨床研究といった役割も担っており、「常に成長する病院」を目指しています。

2022年の開院当初からUpToDateを病院全体で導入し、医師だけではなく、医療スタッフ全員が利用できる環境が整備されています。

* 所属、役職等は、取材当時の情報です(2023年12月)

ダウンロード (.pdf)
Back To Top