Students at Shimane University performing diagnoses in a sim lab
ヘルス01 6月, 2023

島根大学を中心とした医療人育成カリキュラムに組み込まれたUpToDate

人口も医師数も少なく、少子高齢化の進む島根県は、超高齢社会にいち早く対峙する必要があり、医師確保施策として早い段階から「赤ひげバンク」や奨学金制度の設立、遠隔医療支援システムの導入、そして「しまね地域医療支援センター」の設置等に取り組んできました。総合診療医の必要性が叫ばれる中、島根県と島根大学が両輪となり若手医師のキャリア形成から、地域の医療機関の研修体制の充実、県全体で課題の情報共有を行い、ついに「人口当たりの総合診療専門研修医(専攻医)数」を国内トップにまで押し上げるに至っています。今回、こうした島根大学を中心に島根県全体に広がる医療人育成の取り組みについて、島根大学医学部 鬼形学部長ならびに関係者のみなさまにお話を伺いました。

島根大学における取組み 「NEURAL GP network」

Kazumichi Onigata2020年から厚生労働省による「総合的な診断能力を持つ医師養成の推進事業」がスタートし、島根大学を含む7大学が支援先として採択されました。島根大学医学部附属病院に設置された総合診療医センターは「NEURAL GP network」を構築し、全国的に人材が不足している「地域医療における総合診療医」の養成に力を入れています。「島根県内を統括した総合診療医師の養成プログラム」という新しい枠組みが全国的にも高い評価を得るなど、着実に成果を上げています。2022年にはNEURAL GP networkの『教育ネットワークを地域医療ネットワークへと変貌させるメカニズムと設計』が評価され、グッドデザイン賞金賞を受賞しました。

NEURAL GP networkを下支えするUpToDate

総合診療医の養成には複数の医療機関における教育方針の共有が重要であり、その取り組みを県全体で効果的に進めるための共通プラットフォームが必須です。島根県内でNEURAL GP networkの構築を目指す中で、それを側面支援したリソースの一つにウォルターズ・クルワーの臨床意思決定支援リソースUpToDate®がありました。UpToDateは、エビデンスに基づく情報が常時更新され、どこからでも信頼性の高い情報にアクセスすることが可能なため、島根大学と関係医療機関が連携して総合診療医を養成するために重要な役割を担うと期待が寄せられています。

2022年には、島根県内の、島根大学医学部の研修医が研修を受けるすべての病院にUpToDateが導入されました。これにより、指導医と研修医が同じフィールドで議論することが可能となり、研修医指導にも積極的に活用されています。

島根大学医学部とUpToDateとの関係

UpToDateのコンテンツは、各分野の第一人者である世界7400人以上の医師が、執筆・編集を行っています。執筆者となる日本人医師数は現在、約20名に過ぎません。その中の一人が、島根大学 内科学講座 血液・腫瘍内科学 鈴木律朗教授です。

Ritsuro Suzuki「UpToDateを利用している医師たちは、各々の専門分野の周辺にあるCommon Diseaseについて調べることが多いでしょう。医学が高度化すれば情報は細分化しますし、新しい情報が洪水のように溢れていますから、どこに情報が集まっているかを知っておく必要があります。大事なのは膨大な情報を覚えることではなく、これに立ち向かうマインドです。島根大学出身の医師は学生の頃から臨床的疑問を定式化して情報収集を行い、患者に適用する習慣が身についており情報の洪水に怯むことなく疑問の答を導けるのです。」
島根大学医学部 内科学講座 血液・腫瘍内科学 教授 鈴木律朗先生

島根大学の総合診療医育成は、学生の頃から盤石の教員布陣により医療人育成を加速させ、県の地域医療の充実とさらなる進化を目指しています。たとえば、医学英語教育に注力するとともに、「医療マネージメントにおけるリーダーシップ」というカリキュラムを設けることで、国際的に医師と同時に教育者としても活躍できる医療人育成を目指しています。

Jun Iwata「世界で活躍できる医師になるためには、低学年のうちから医学英語にも慣れ親しむことが重要です。本学部は、全国の医学部の中でも高度に体系化された英語教育体制を整備しており、1年次からUpToDateなどで医学情報を検索する技術も習得できるようなカリキュラムを組んでいます。英語医療面接の演習では患者との信頼関係を構築するコミュニケーションスキルを学び、英語論文や英語の医学ニュースを読みます。4年次からは、UpToDateのコンテンツを教材に臨床医学を英語で学ぶカリキュラムも履修します。」
島根大学医学部 医学英語教育学講座 教授 岩田淳先生

また、若手医療人のさらなる成長に結びつけるUpToDateの活用も始まっているそうです。

Taishi Nagao「現在は情報が溢れ、誰かが何でも“教えてくれる”時代です。私は学生たちに、医師として人として生きていく上で“大事な情報は自分で探しに行く”という習慣を身に付けてほしいと願っています。学部教育も“勉強の仕方を教える”方向にシフトしています。情報源としての信頼性が高いUpToDateを一つの教育ツールとして利用し、1年生からUpToDateに慣れ親しみ、医師として働くようになってからも“自分の知識+外部の情報”を使って考えることが習慣となるよう、指導しています。」
島根大学医学部 地域医療教育学講座 教授 長尾大志先生

Soushi Takagi「私は、“もっと臨床医学を学びたい”という強い思いがあり、1年生から臨床推論の勉強ツールとしてUpToDateを利用するようになりました。包括的に疾患の情報を得ることが多く、例えばUpToDateのコンテンツでReferential Diagnosisを読み、自分が予想しなかった他の疾患をみて学びを深める、という使い方もします。UpToDateは、常に進化している点、使い続けることで自分の知りたい情報にすぐアクセスできる点が強みです。医師として働く上でも頼りになる、“自分で調べる”ことで知識を深めてゆけるツールであると思っています。」
島根大学医学部 医学科5年* 高木創志さん

これからの日本の医療を担う総合診療医とUpToDate

総合診療医の養成のポイント

今後の日本の地域医療を担う総合診療医の養成は、高齢化による複数疾患罹患者の増加への対応はもとより、自然災害や感染症拡大時における医療提供体制の確保などの観点から、国家レベルでの重要なプロジェクトです。2018年に導入された新専門医制度では、専門医の基本領域に「総合診療」が追加されました。2021には「総合診療専門医」が誕生し、現在も確実にその数は増えています。

ここで、島根県内で地域医療を支える医師をご紹介します。

浜田市国民健康保険あさひ診療所所長 上野伸行医師は、東京出身です。島根大学医学部で学び、医師となってからも島根の県民性を愛し、地域医療の現場で活躍されています。

Nobuyuki Ueno「学生時代から利用しているUpToDateは、現在でも日常の疑問や課題解決、あるいは患者さんへの説明ツールとなっています。島根県は高齢患者さんが多い地域ですので、言葉での説明だけではなく、UpToDateを患者さんと一緒に見ながらワクチン接種に関する理解を深めたり、治療方針を決めたりします。患者さんと一緒に意思決定ができると服薬コンプライアンスも向上します。また、地域の先生方とエビデンス情報を共有する際にもUpToDateの情報を利用しています。」
浜田市国民健康保険あさひ診療所所長 上野伸行先生

次に、総合診療医センターを率いる白石吉彦センター長です。1992年に自治医科大学を卒業後、1998年に島前診療所(現:隠岐島前病院)に赴任され、2001年に同病院長に就任しました。周囲の診療所を含めた総合診療医による複数主治医制や本土の医療機関との連携により、人口約6000人の隠岐島前地区の医療を支えてこられました。現在、当センター長として島根県の総合診療医育成に向けて精力的に活動されています。

Yoshihiko Shiraishi「センター長として島根県全体の地域医療のマネージメントを担当する傍ら、地域実習や講義の中で学生同士が発表を行うような場合に、UpToDateで情報検索を行うことを推奨しています。医師のプロフェッショナリズムや態度として大事なのは嘘やごまかしが無いこと。“分からないから調べる”と患者さんに伝え実際に行動する、患者さんと真摯に向き合う医師の意思決定支援ツールであるUpToDateは、へき地医療や地域医療における格差を埋めることができる有用なツールと言えます。」
島根大学医学部附属病院総合診療医センター センター長 白石吉彦医師

3人目は、日本の総合診療の旗手でもある、副センター長の和足孝之医師です。現在、米国で医療に従事される和足医師は、日本の医療現場や医学教育に対するUpToDateの重要性に早くから着目していました。臨床現場や教育現場等におけるUpToDateの「より効果的な活用」を推進しています。

Takashi Watari「患者さんのために学びたい医療者にとって、UpToDateにより世界標準の医療情報にアクセスし科学的根拠のある情報を利用できることは、完全なブレイクスルーといえます。世界で活躍する医師のマインドは本当に凄い。最先端の医療が無い環境でも患者さんと真摯に向き合い、今ある医療資源で最大の診療を行えるような医師を育成していくことも私たち日本の総合診療医の役割です。」
島根県総合診療医センター 副センター長 和足孝之先生

鬼形学部長からのメッセージ

Kazumichi Onigata本学部の使命は、『プロフェッショナリズムを備え、地域だけでなく国際的視野を備えた医療人の育成』と『地域社会に還元できる基礎研究及び臨床研究の推進』です。そのために『人を見つめ 地域を見つめ 未来につなげる』を信条として多くのミッションを遂行いたしますが、行動の基本は“3つのFD”にあると考えます。

  • Functional diversity:創造性ある組織の構築 ~もう一工夫の取組み~
  • Functional delivery:人を大切に育てる ~届く言葉を大切にする~
  • Functional development:自問自答する ~次の一手を考える~

UpToDateは、日本のガイドライン等の枠組みを超えて「本当に患者さんのためになる医療」を提供するために重要なツールとも言えるのではないでしょうか。多くの教員がUpToDateをカリキュラムに組み込み、それを学生が利用する、そうして巣立ってゆく彼らが実際の臨床でさらにUpToDateを利用する、こうした流れが世界で活躍できる医師に繋がるのではないでしょうか。島根県で育つ人材が地域や患者さんと真摯に向き合いながら、医師としてどう行動していくのか。UpToDateは、国際的視野を備えた医療人の臨床意思決定を支援するツールであると信じています。

Megumi Narita「3年生の時、UpToDateのチュートリアルで「疑問の調べ方」を学ぶ機会があり、4年生からの臨床実習では、疑問点を教科書やUpToDateで調べてから質問するというスタイルで学んできました。疑問をいきなり投げかけるのは相手の時間を使ってしまうし、何よりUpToDateは執筆者が明確であり、常に最新の情報に触れることができるツールです。目の前の患者さんに対する意思決定ツールとしてUpToDate の利用を続け、いずれは世界で活躍できる医師を目指しています。」
島根大学医学部 医学科6年* 成田恵さん
*2023年3月取材当時

島根大学について

島根大学医学部は、1976年に開学した旧島根医科大学を前身としています。1999年に看護学科を設置し、旧島根大学との統合を経て2003年に国立大学法人島根大学医学部となり、2022年3月までに5,310名の卒業生を社会に送り出してきました。そして、2025年に創立50周年を迎えます。本学部は島根県出雲市にあり、出雲大社(いずもおおやしろ)にほど近い、風光明媚、そして美酒佳肴の縁の国に立地しています。

島根大学では、2005年よりUpToDateを導入し、医学部での教育や附属病院での臨床意思決定支援ツールとして利用されています。

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