小児科指導医・小児循環器専門医 早野 聡 医師
臨床症例
小児科で後期研修を開始して間もないころ、1カ月齢の男児が両親に連れられて来院しました。男児は前日から嘔吐が出現しており、努力呼吸が認められました。体重は3,230gで、診察日までの7日間で214gの体重減少がありました。
高度の脱水のため大変重症で、非代償性の代謝性アシドーシス(pH 6.980、BE-25.5)を呈していました。検査の結果、高血糖(血糖値 706 mg/dL)とケトアシドーシス(総ケトン体 13750 μmol/L )が判明し、糖尿病性ケトアシドーシスが考えられました。男児はそのまま放置すれば、数時間以内に死亡していたかもしれない状態でした。
診断と治療
新生児期のこのような疾患を経験したことがある医師は、周囲に皆無でした。年長児であればⅠ型糖尿病に伴う糖尿病性ケトアシドーシスを考える病状でしたが、新生児・乳児期のI型糖尿病発症は稀です。
何らかの先天性の代謝性疾患や重症感染症など、他の鑑別診断の可能性はないか迷いました。外来のコンピュータでUpToDateに接続して、考えられる鑑別診断と適切な治療について検索しました。
新生児糖尿病は500,000人中に一人発症の稀少疾患ですが、UpToDateを使用して初療時点から正しい診断にたどり着いたことで、的確な治療を行うことができ、病院外の専門医に早期にコンタクトが取れました。また、UpToDateでの検索により、新生児糖尿病の病態が明らかになり、特異的な治療法が存在すること、KDNJ11遺伝子変異が原因であることもわかりました。
男児は現在、内服薬で血糖値は安定しており、元気に通院しています。毎年送られてくる季節のグリーティングカードで成長を見るのを楽しみにしています。