医療者間での共通言語としてのUpToDate
医療者同士の情報共有という点では、どのように利用されていますか?
矢野先生:医師と薬剤師との間では、やはり「薬剤の相互作用」という観点での利用が多くなります。たとえば、日本の添付文書だけでは足りない情報、併用禁忌、併用注意などのランク付けなども、Lexicompにはあります。薬剤師としては、入院された患者さんの持参薬に新しい薬剤を追加するとき、その影響を調べるという利用もします。情報の中にはレファレンスもありますし、PubMedのIDもありますから、すぐにリンク先の情報も読み取ることができる点が、網羅的な情報の検索につながるのだと思います。
かつては、医師が処方を出し、それに対して薬剤師がチェックするという形が一般的でしたが、今は病棟に薬剤師が日常的に配置されているので、処方する段階から医師に対して提言するようになりました。薬剤師が、処方を作る段階から関わっていく、違う職種で協力し合うというのが今のスタイルです。薬剤を決めるのは医師ですが、薬剤師はその薬剤の投与量、相互作用や併用禁忌などのチェックをしていくのが役目だと思います。
南先生:たとえばつい先日、既往症がある患者さんへの処方を考えるとき、薬剤師に「処方を提案してほしい」と依頼しました。
薬剤の中には、QT延長という重篤な不整脈を起こすものがあります。その時は、処方しようとした薬剤に「QT延長を引き起こす可能性がある」という記載がありました。違う薬剤を選択しようとしても、外来診療の間に詳しく調べることは難しい。でも薬剤師がいれば、疾患名や患者の既往歴などの情報をお伝えし、適切な薬剤を提案してもらうこともできます。
矢野先生:医師と薬剤師、同じ情報源からの共通言語で話ができることも、メリットではないでしょうか?
南先生:医師には、製薬会社の医療情報担当者が多くの情報を提供してくれますが、どこまで公平性が維持されているかという問題もあります。医師も、新しい治療法や薬剤のことはサイエンスベースのUpToDateや多くの論文などから情報を得て、エビデンスに基づいた情報から判断していくべきです。薬剤師と医師が同じ情報源から情報を得ることは重要と言えます。
今まで知らなかったことを知ることができる、ということもありますか?
坂口先生:UpToDateの情報を読むことで、さらに疑問や興味がわくことはよくあります。なかなか止まらないというか、調べ出すとどんどん深みにはまっていくというか。電子媒体は、その先にどれぐらいの情報があるのかが分かりません。例えば教科書や医学雑誌などの書物を読むと、一冊の本が目の前にあるので、そこに限界があります。しかし、電子媒体になると、いくらでも調べ物が広がっていくような懸念が逆にあります。どこかで止めないと、UpToDateでの検索ばかりに時間を費やしてしまう程です。
矢野先生:薬剤師は、病棟で患者さんを担当し、実際の治療が標準的かどうかということをチェックするために、ガイドラインなどのエビデンスを調べます。医師に対して、「こういう情報もありますよ」とご提示することもあります。
たとえば、薬剤師が患者様と会ってお話しする中で、副作用と思われる情報を得たとします。すでに医師の方で診断されていますが、副作用が懸念されたときは、UpToDateとLexicompを利用して、別の薬剤を医師へ提案することもあります。疑問が出たら自分で調べて医師に提案するということが、薬剤師自身の勉強にもなっています。
最近では、スマートフォンからもUpToDateのコンテンツを利用できるようになりました
南先生:移動中でも時間のある時に、思い立った時にちょっと調べたり、知識の整理には使えると思います。ただやはり字が細かいので、私自身は大きな画面のほうが見やすいです。