1. 壮大な計画を立てるのではなく、小さなことから始めて、経験しながら学んでいくこと
私の経験上、データ分析を成功させるには、壮大な実行計画の立案からではなく、小さなことから始めて、自分の組織には何が適しているかを検証し、学んでいくことが大切です。 これには、実施した分析業務から得たインサイトに基づき、リソースと技術への投資の拡大によってさらに前進できる可能性を示すことで、取締役会や経営陣からの支持を得ることも含まれます。 これは、理論的な事例を前面に出してそれに伴う予算の追加を要求するやり方とは対照的です。 このアプローチでは、まず、実施する監査作業の分野を選択し、その作業にデータ分析を試験的に導入することから始めます。 選択する分野は、必要なデータに比較的簡単にアクセスできることがわかっている分野でなければなりません。 内部監査に協力的で、この試みを成功させるために喜んで力を貸してくれる被監査人がいる分野が良いでしょう。この方法で、成功がさらなる成功を生み、機運が高まることがわかりました。 また、早い段階からデータ分析の事例研究のライブラリを構築して、組織のさまざまな幹部社員に成功事例をアピールし、データ分析活動の拡大に対する支持を得るのも有効です。 私はこれを、試験―共有―感動アプローチと呼んでいます。
2. 新しいテクノロジーにこだわらず、既存の手段を使うこと
残念ながら私は、データ分析に関する会議で、データ分析作業のために利用できそうなテクノロジーについて長々と議論して時間を無駄にした経験があります。すでに手元にあるテクノロジーを使ってデータ分析活動を進めることに、その時間を使った方がどれほど良かったか。データ分析を進める上で重要なプロセスの1つは、組織がすでに導入している(すでに投資している)関連テクノロジーを特定することです。私が関わっていたある組織では、2週間で、必要なすべてのテクノロジーが導入済みで、すぐに利用可能だということが判明しましたが、これは、IT部門と連携して、導入済みのテクノロジーに関する知識を確認することで実現しました。また、私たちのビジネスネットワークを通じて、IT部門で認識していなかったにもかかわらず、すぐに利用可能なツールが他にあることもわかりました。あなたが発見するツールのほとんどは、内部監査人を念頭に開発されたものではないかもしれませんが、簡単に調整してデータ分析に利用できるはずです。そのためには、何が利用可能かを調べ、チームがアクセスできるようにして、まず使ってみて、データ分析のどこでそれを利用できるかを調べましょう。Excelで十分な場合も多いのですが、もちろんTeamMate Analytics for Auditのデータ分析機能を使用すれば、TeamMateシステム内の監査作業に分析を完全に統合して、効率性を大きく向上できる、ということを忘れないでください。
3. データへのアクセスは必須、上層部と交渉すること
作業を開始したら、作業が円滑に進められるよう、データアクセスには常に気を配る必要があります。 当然ながら、関連データにアクセスできない場合、洞察力のあるデータ分析を実現することはできません。 このことは、最初の試験的導入からより体系的なアプローチへと移行するにあたり、どのように行うかをしっかりと考えておく必要があります。 分析量が増えるにつれて、答えを出したい本当に重要な質問は何か、データはそれにどう役立つのかを体系的に考える必要が出てくるでしょう。 組織内のデータはどこに保存されていますか? どこを見ればいいか監査人全員がわかるようなデータのマップはありますか? 特に人事や顧客データなどの機密データには、アクセスを許可するかどうかで、組織内で反対の声が上がるかもしれません。 当然、このような機密データのセキュリティを守るための適切な管理手段があなたにあることを示す必要があります。 どのようなデータ漏洩でも起こしてしまったら、あなたの信用を落とすことにつながるため、これをしっかり行うことが重要です。 ご存知のようにTeamMateにはセキュリティ機能が備わっており、分析データをコア監査システムに保存することで、適切に管理しているという安心感を得られます。 これを行う際には、全関係者に従ってもらうことで、迅速かつ簡単にアクセスできるような、シンプルなデータアクセスプロトコルを確立することいいでしょう。 組織内の抵抗が解消されない場合は、経営陣の協力を得る必要もあるかもしれません。CAOはこうした抵抗の解消に、CEO、CRO(最高リスク管理責任者)、HRD(人事部門長)と連携する必要が生じる場合もあります。 ここが、戦略の「共有―感動」の部分が非常に重要となるところです。 経営陣が、すでに別の分野であなたの分析力を認識している場合は、データへのアクセスをサポートしてくれる可能性があります。
監査人に必要なのは、リスクや人事などの組織の主要システムへの読み取り専用のアクセス権とともに、継続的にこれらを使用できる状態にあるということを忘れないでください。 フィード設定や分析ツールは必要ありません。データベースを検索して、レビュー中のエリアで起こっていることを確認する権利だけで十分です。 この読み取り専用のアクセスは、まじめな話、分析戦略において十分に活用されていない要素の1つだと思います
4. 独立性を維持しながら、ビジネス担当者と協力すること
私はこれまでに、監査憲章や、ファーストラインやセカンドラインの活動から完全に独立した存在である必要性を引き合いに出して、業務担当者と緊密に協力するのを嫌がる多くの監査人と仕事をしてきました。 内部監査役人として独立性が非常に重要であり、 すべてのことにおいて客観的である必要がありますが、 独立性とは、業務担当者との緊密な協力が理にかなっている場合でもそれができないという意味ではありません。 その一例として、データ分析機能の特定と開発が挙げられます。 現在では多くの組織がデータの活用を強化しようという何らかの戦略的意図を持っています。 事実、多くの内部監査部門で行われている素晴らしい仕事に並行して、多くの場合、ファーストラインやセカンドラインにおける分析機能に多大な投資が行われています。 これが共通の関心事だと考えると、分析活動に関与するすべての人が一致協力して、アイデア、テクノロジー、データを事業の利益のために共有することには意味があります。 例えば、全員がアクセスできる共有データウェアハウスを開発する、市販されている多数の分析ツールの1つに共同投資する、会社のデータセットを恒常的に分析できる機能を確立するプロジェクトに共同で取り組む、などが考えられます。または、直接、内部監査については、監査によるコントロールが継続的に機能する保証ができるよう、当社が開発した分析ソリューションを共有して半永久的にビジネスに根付かせることも可能です。 会社全体からこの分野に関心のあるビジネスパートナーを見つけ出し、彼らと共に共有し、学び、前進しましょう。
5. すべてのレベルの全監査人のスキル向上を図ること(もちろん、CAEであるあなたも含まれます)
監査チームメンバーにとって、分析をいつ使用するか、そして、どのように実施するかを特定するスキルは不可欠です。 分析は、もはや特殊なスキルではなく、あらゆる監査人にとって、コアコンピテンシー(核となる能力)であるため、 チームメンバーの採用と能力開発アプローチに反映されている必要があります。 私は、新入社員全員にデータ分析スキルがあることを期待して、採用プロセスの中で、何らかの事例研究の演習を実施することで、これをテストするのが大好きです。 これにより、採用しようとしている人たちのマインドセット(分析を使用すべき機会を認識できるか、など)と、シンプルな分析手法を使用するスキルの両方を検証することができます。 新入社員の世代は、データに精通していることをご存じですか。 内部監査コンピテンシーのフレームワークがあるならそれを再確認し、監査人がこの分野で成功するために必要なスキルと知識を明確にする必要があります。 このフレームワークには、データ操作、統計分析、コーディング(少なくとも一部の人に対して)、データの可視化、プレゼンテーションなどの必要なスキルが明確に規定されていなければなりません。 求められるデータ分析のマインドセットとスキルについて、チームにきめ細かいトレーニングを提供する必要が生じる場合もあります。 データ管理と分析に関する共通の理解を深め機運を高めるために、CAEや監査部長を含めた監査部門内のすべての監査人が一緒に参加するプログラムが増えています。
チームメンバーに対して、必要なスキルの何が自分には足りないか、正直であることも必要です。 データ分析のスキルと知識はかなり細分化されており、比較的小規模な内部監査部門の場合は能力を深くまで構築できない可能性があります。 業務担当者や外部のコンサルタントなど、他から専門的な知識や経験のサポートを受けて、 チームのキャパシティと能力の両方を補う必要が出てくるでしょう。
6. 効果的なパフォーマンス管理によって説明責任を担保すること
チームメンバーは、データ分析の活用を推進するために常に説明責任を果たすことが重要です。 分析を幅広く活用したいなら、このことに対する報酬と評価をパフォーマンス管理に組み入れる必要があります。 ある組織では、内部監査部門を通じて全員が監査業務におけるデータ分析活用について明確な目的を持ち、シンプルなデータ分析を活用した監査業務とQA部門の精査・承認による複雑な監査業務の割合を設定して部門全体としての目標としていました。 これは比較的単純な例ですが、このことは重要であり、全員が各部門の業務に合わせてデータ分析を活用する方法を模索することが大切です。 この組織は大きな成功を収め、現在ではあらゆることにデータ分析が統合され、監査の発見事項や継続的な事業のモニタリングにおいて素晴らしい成果を収めています。また、監査で開発された分析機能がファーストラインとセカンドラインに導入され、日常的なコントロール管理の一部として活用されています。
7. 成功を多くの人に伝え、称えること
成果を称える方法は1つではありません。すべての組織が独自の文化とアプローチで成功を共有しています。 ある組織では、半年に1回、監査の成功事例集をまとめ、 半年に1回の監査リーダーシップのイベントで、チーム全員の投票で最も誇りに思う成果として選ばれたいくつかの事例を、それぞれ3~5分で、最高責任者、会長、監査委員会メンバーに発表していました。 チームにとってうれしい瞬間であるだけでなく、チームが付加した価値と業務に注ぎ込んだエネルギーを監査委員会や経営陣に総合的に理解してもらえる機会でもあります。 これらの事例すべてがデータ分析によるものであったわけではありませんが、時間の経過とともに、データ分析の取り組みの機運と支持が高まるにつれて、データ分析を主体とする事例が増えていきました。
8. 監査手法のあらゆる部分にデータ分析を組み入れる余地はないか検討すること
データ分析の使用は、監査手法に「オプトイン(足すもの)」ではなく「オプトアウト(引くもの)」とすることが重要です。 監査人は、監査プロセスの重要な段階(各トールゲート)で、データ分析をどのように使用できるかではなく、なぜ使用できないかを示す必要があります。このオプトアウトアプローチでは、あらゆる段階でデータ分析の機会を模索し、分析を活用した監査の割合を増やそうという内部監査チームの意識が重視されます
9. 持続可能な方法で自分自身の能力向上を図ること
監査ごとに、スプレッドシートを作成してデータを分析することは非常に簡単ですが、 将来再利用することができません。 Excelを使用するか、TeamMate、またはPowerBIやPythonなどのソフトウェアを使用するかにかかわらず、再活用を念頭に置いて分析方法を開発することを監査人に推奨しましょう。 将来誰かが使用できるように設定する必要があるため、少し余分に時間がかかりますが、長期的にはメリットが得られます。 各監査の最後に、チームが分析結果を整理し、適切に構成されたデータ分析ライブラリに保存する時間を取る配慮が必要です。 ある程度規模の大きい組織では、中央データ分析チームが力を発揮するでしょう。 このチームが中心となって、分析の活用の際にこのような体系化が確実に行われるようリードし、また、事前設定されたテストスクリプトの開発や、ライブラリのメンテナンスや有用性の維持にも責任を負います。
10. 学際的(ハイブリッドとも呼ばれる)アプローチがもっとも効果的
これは、データ分析結果を提供するための運用モデルをどう設定するか、という話です。 一部の大規模な組織では、十分なリソースを持つ専任チームが分析を行っていますが、少数の専門家グループが、分析の活用とその推進について訓練を受けたフロントラインの監査人と協力して作業するハイブリッドなアプローチを採用する組織が増えています。 このハイブリッドなアプローチによって、独立した中央の部門で分析作業を行うよりも、より広い範囲で能力を構築し、より多くの監査業務により深く分析を浸透させることがきるようになります。
データ分析戦略の開発と実行を成功させるための特効薬はありません。しかし、データ分析の推進に必要な、自分に合った条件を検討する際に、ここで紹介したヒントが役立つことを願っています。 成功を祈ります。